「あんなヤツ、だいっきらい!!」
―――そうよ、誰があんなヤツのことなんて・・・!!









― 風 の 言 葉 、沈 む 記 憶 ―









魔法王国アルテナを出たアンジェラは、今、船で漁港パロへ向かっている。
風の精霊・ジンを探すために。
たった一人で旅を始めたその道中、様々な仲間を得た。
マナの剣を抜く勇者を見つけるために、聖域からやって来たフェアリー。
ナバールの忍者軍によって国を滅ぼされ、連れ去られた弟を探している、風の王国ローラントの王女リース。
そして・・・。
紅蓮の魔導師を倒すために旅を始めた、草原の王国フォルセナの剣士デュラン。

―――紅蓮の、魔導師・・・。

自国アルテナ一の魔導師で、母である理の女王の右腕とも言える男。
デュランからその名前を聞いたその瞬間、アンジェラは一瞬顔を顰めたのだった。
そんな彼らを乗せ、船は順調に進んでいる。
現在はシェイドの刻。
外は暗い夜の闇に覆われている。
船室のベッドの中で、アンジェラは寝返りを打った。
先ほどから全然眠れない。
小さくため息をつく。
隣のベッドを見れば、リースが静かに寝息を立てていた。

―――外の空気でも吸いに行こうかしら・・・。

そう思い、リースを起こさないようにベッドから抜け出し、甲板へと向かった。



甲板へ出るドアを開くと、途端に潮風が自分の髪を攫った。
少し風がある。
アンジェラは風に靡く髪を押さえ、ゆっくりと手摺りまで歩を進めた。
手摺りに身体を預け、夜の海を眺める。
どこか近寄りがたいような、冷たい雰囲気。
まるで今の彼のようだ。
不意に、フォルセナでの出来事を思い出す。
玉座に座す英雄王の前に立ち塞がる彼を前にしたその瞬間、強い衝撃がアンジェラを襲った。
どこまでも冷たくて、暗くて、肌に突き刺さるような殺気。
それだけで人を殺せるんじゃないか、と思えるほどの。
それ以上に、彼にそんな殺気が出せるなんて、思ってもみなかった。
本気で人を殺そうとしている彼を見て、心の底から悲しかった。
やはり彼は変わってしまったのだ、と改めて思い知らされた瞬間だった。
と、そこまで考えて、ハッとする。

「誰が、あんな・・・あんな・・・・・・っ」

ポタリ・・・。
手の甲に水が落ちる。
空を仰ぐが、空には星が輝いているばかり。
雨なんか降っていない。

「っ、やだ・・・何泣いてんのよ、私ったら・・・!」

拭っても拭っても、涙が零れ落ちてきて止まらない。

「あんな・・ヤツ、の、こと・・・なんてっ・・・、だい・・っきらい、な、のに・・・っ」

―――何で涙なんか出てくるのよ・・・!!

『寂しい』。

その言葉が頭を過ぎる。
次の瞬間、アンジェラは勢いよく首を横に振った。

―――バカ言わないで!寂しいなんて・・・そんなこと・・・っ。

「ある訳ない!」

そう叫びたいのに、言葉が続かない。
それではまるで、逆に自分が寂しいと思っているようで、癪に障る。
認めたくない。
寂しくなんてない。
これはもう捨てた感情なのだから。
なのに・・・。

―――なんで、こんなに苦しいのよ・・・。

苦しくて、苦しすぎて、嫌になる。
そしてアンジェラは、苦しみから逃れるために、心に蓋をした。
すると、少しだけ心が楽になったような気がした。
小さく安堵のため息をつく。
だが、心の奥では、絶えず寂しさを訴え続ける。
気付きたくないだけで。
気付かないフリをしているだけで。
本当は、寂しくてたまらなかった。
あれから1年弱ほど経つというのに、寂しさはまったく癒えてはいなかった。



どこを見るでもなく、絶えずうねり続ける波をじっと見つめる。
大きい波。
小さい波。
船底に押し寄せたかと思えば、またすぐに別の波が押し寄せる。
変わらない光景。
どうして自分がこんなに見入っているのかわからない。
端から見れば、つまらない光景だと思うだろう。
それでも、何故か飽きることはなかった。

「はぁ・・・」

自然とため息が漏れる。
ふと、昔を思い出した。
彼と一緒にホセの元で魔法の勉強に励んでいた時のことを。
あの時は本当に楽しかった。
彼は無口で無愛想だったが、不思議と、一緒にいられるだけで楽しかった。
一緒にいられれば、それだけで良かった。
友達のような、お兄さんのような・・・そんな仲間だった。
もしかしたら、憧れや、それ以上の気持ちもあったのかもしれない。
だが、これだけは言える。
かけがえのない大切な人だった。
なのに・・・。

―――その頃の貴方は・・・もういない・・・。

目の奥が、じぃん・・・と熱くなる。
不意に、彼が言っていた言葉を思い出した。

『・・・俺は、この国を変える。そうしたら・・・』

彼は何か続きを言おうとしていたようだったが、「・・・いや、何でもない」と、それっきり口を閉ざしてしまった。
続きを何度も聞こうとしたが、結局は教えてくれなくて。
そして今に至る。
あの時、彼は何を言おうとしていたのか。
自分には知る術は無い。
でも、その時の彼の目だけは、はっきりと頭に焼き付いていて離れない。
何かを決意した、強い目だった。
そして、今・・・。
彼の言葉通り、アルテナは・・・いや、世界は大きく変わろうとしている。
彼は何が言いたかったのだろう?
彼は何をしたいのだろう?
彼はどこへ行きたいのだろう?
・・・わからない。
いくら考えても、答えなんて出てこない。






「私・・・貴方のことがわからないよ・・・・・・ブライアン・・・」






呟いた言葉は、風に靡く髪と共に、空へ舞い上がった。
この風は、今呟いた言葉を、アルテナにいる彼の元へと運んでいってくれるのだろうか?
それとも・・・彼には運ばれぬまま、時の流れと共に風化していってしまうのだろうか?

その答えは、風だけが知っている。






      Fin



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口では「嫌い」なんて言ってるけど、でも実際はとても寂しい。
でも、そんな自分が嫌で強がったりしてみても、気が付けば感傷に浸っている。
そんなアンジェラを書いてみました。



とのことで、コンさんから、アンジェラ視点の切ないぐれあん小説を頂きました!
情景が浮かんでくるような、生きた文章とそれと共に伝わるアンジェラの心の動きがとても胸に痛く感じます…。
コンさん、有難う御座いました☆